看取り介護
2020.07.06掲載
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仕事内容

 仏教の中に「生・老・病・死」は避けられないという教えがあります。私は仏教徒ではないのですし、宗教選択の自由に反して仏教を布教しようというつもりも全くないのですが、この教えは真理だと思っています。生まれること、老いること、病気になること、死ぬこと。これを四苦と言うそうですが、ここで言う「苦」というのは単に苦しいということではなく、「思い通りにならないこと」なんだそう。ちなみに、四苦八苦という言葉もここから生まれているようです。……どうでもいいですね。

 介護施設で働いていると、利用者様の最期の瞬間に立ち会うことがあります。時には呼吸が止まるその瞬間を看取り、時には様子確認でお部屋に行ったら既に息を引き取っていたり、家族にその瞬間を看取ってもらったり、最期の瞬間は人それぞれです。そんな時に必ず考えること。それは「この人の一生は幸せだったかな」「最後にはどんなことを考えていたんだろう」「食べたいものはなかったかな」「会いたい人はいなかったかな」ということ。

 人はいつか亡くなります。決して避けては通れないのです。それまでをどのようにして過ごしてもらうのか。「看取り介護」とは何なのか。今回はその辺をお伝えして行きたいと思います。

 

看取りとは?

 一昔前は、どんな状態でも長く生きることが重視されていましたが、現在は「残された時間を有意義なものにする」「自分らしい最期を過ごす」という考え方にシフトしています。そこで注目をあびたのが「看取り」および「看取り介護」です。そもそも「看取り」とは何を指しているのでしょうか?

 全国老人福祉施設協議会の「看取り介護実践フォーラム」(平成25年度)では、「近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、 人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること」と定義しています。つまり看取り介護とは、要介護状態を改善したり維持したりするための介護ではなく、本人ができるだけストレスなく、自分らしい最期を迎えるための介護ということになります。そしてそれは医師の診断によってのみ有効となります。

 

ターミナルとの違い

 看取り介護と似た言葉で、ターミナルケアという言葉があります。ターミナルケアは「終末医療」と訳されることからもわかる通り、主に終末期の医療および看護のことを指します。対して看取り介護は、医療行為ではなくおもに終末期における介護・介助のことを指します。要するに終末期医療は「ターミナル」、終末期介護は「看取り」という認識で間違いないかと。

 

具体的な看取り介護の内容は?

では、実際の看取り介護はいったいどのようなことをするのでしょうか?介護報酬の「看取り介護加算」は、以下の5つの条件を満たした場合に算定できるとされています。

 1

当該施設の看護職員、病院または診療所、指定訪問看護ステーションのいずれかの看護職員との連携で24時間連絡できる体制をとること

  2

看取りに関する指針を定め、施設入所の際に、入所者とご家族に看取りに関する定めた指針について内容の説明を行い、同意を得ること

  3

医師、看護職員、ケアマネージャー、介護職員などが当該施設においての看取りについての協議を行い、指針について適宜見直すこと

  4

看取りに関しての職員研修を行うこと

  5

看取りケアは個室または静養室などを利用し、本人、ご家族、周囲の入所者に配慮すること

 

 これらをクリアすると「看取り介護加算」と言って月々の利用金額に上乗せして請求をすることが出来ます。介護報酬に関しては種々様々な加算項目がありますので、そちらはまた別の機会に。

 

看取り介護をやらないという選択肢

 高齢者に限ったことではないのですが、死が近い状態の方はご自分の意思で食事や水分を摂ることが出来ません。あなたがご自身の最期を想像するとき、経管栄養や水分補給の点滴、人工呼吸器や尿道カテーテルを使い、全身管だらけの状態のまま最期を迎えているでしょうか?その急場しのぎの延命が一番尊厳を奪っているという考え方もできますよね。死生観は人それぞれですが、食べれなくなった・飲めなくなった、という段階から段々と衰弱していき、やがて息を引き取るという状態が自然な最期だとするならば、ハード・ソフト共に看取り介護が出来るだけの余裕がありながら、「あえて看取り介護はやらない」という施設さんもあるのです。

 

まとめ

 詰まるところ、「看取り」とはどういうことなのでしょうか?利用者さんの最期を「看取る」のですから、その瞬間に立ち会えるのがベストです。でも施設で働いていると、当然ながら他にも利用者さんはいらっしゃいますので、その人だけを見ているということが困難になります。冒頭でもお伝えしましたが、「お部屋に行ったら呼吸が停止していた」というパターンも非常に多いのが現状です。

 以前ある会社さんが高齢者に対して「どんな死に方が一番嫌ですか?」というアンケートを行ったときに、その回答のほとんどが「孤独死」という回答だったことがあったそうです。それが真実であるなら、介護員が看取り介護を行う上で一番大切なことは、「最後の瞬間を看取ること」なのではないでしょうか?施設にいる介護員も看護師もマンパワーは有限です。だからその瞬間はなにも介護員や看護師だけが看取る必要はなく、事務員さんだって相談員さんだってドライバーさんだって栄養士さんだっていいんです。そうやって絶え間なく誰かが見ていられる状況なら、看取ってくれる誰かがいるのなら、故人も安らかに逝けるのではないか?と、どうしても考えてしまうのです。