高齢者の脱水症状とその予防
2020.06.01掲載
  • Facebook
  • Twitter
  • Line
お知らせ

 段々と暑くなってきましたね。本稿作成日(2020年5月28日)は全国的に夏日となり、年々温暖化の傾向が強まってきているように思います。暑くなれば必ず起こるのが熱中症ですね。今回はその主症状である「脱水」についてお伝えしていきます。

 

「脱水症」とは?

 体の機能を保持するために重要な役割を担っている体液は、人間の体の約6割(高齢者の場合は約5割)を占めているとされ、血液・リンパ液・消化液などから構成されています。体液は、体外に出ていく水分量・塩分量と、体内に補給する水分量・塩分量が同じくらいのときに、ちょうど良いバランスを保てています。しかし、大量に汗をかいたり、発熱や下痢などの体調不良で水分が失われたりすることで、体内に必要な水分量と塩分量が十分でなくなる場合があります。そうした状態が脱水症です。

 

脱水症の危険性

 体液には、呼吸によって取り込んだ酸素や食物などから得た栄養素を体中に届ける働きがありますが、脱水症に陥っている場合は、この機能がしっかり果たされません。そのため、軽度の脱水を放置しておくと、血管や内臓、脳などを正常に動かすために必要な酸素や栄養素が行き渡らず、思わぬ病気につながるおそれがあります。早めに適切な処置を施さないと、命にかかわることもあります。
また、脱水症は、糖尿病や排尿障害などの病気の予兆である可能性もあるので、症状が進行しないうちに気づくことが重要です。

 

高齢者が脱水症に陥りやすい理由

 脱水症は、年齢を問わず誰でもなってしまう可能性がありますが、特に高齢者が脱水症に陥りやすいのには、高齢者特有の理由があります。
 
①体内の水分量が減っている
加齢に伴い、食欲の減退や食べ物を飲み込む嚥下機能に障害が生じると、水分の摂取量が減っていきます。また筋力の低下により、体液を多く蓄積する筋肉の量が落ちることも、体内の水分量が減ってしまう原因です。
 
②内臓の働きが低下している
加齢とともに低下する内臓の働きも、脱水症を引き起こす要因です。特に、体内の水分量をコントロールする腎臓の働きが低下すると、塩分濃度を適正に調節できなくなり、脱水症に陥るリスクが高まります。
 
③のどの渇きに気づきにくい
高齢者は、感覚機能が低下しているため、自分でのどが渇いていることに気づかないことがあります。認知症の症状が出ている人は特にその傾向が強く、自分が飲み物を飲んだかどうかを忘れてしまい、長時間水分を摂取しないままという場合もあります。さらに認知症の症状が進んでいる人は、飲み物という概念そのものを忘れてしまっている可能性も考えられます。
 
④病気や排泄障害がある
排尿が過剰になる病気を患っていると、脱水症を引き起こすリスクが高まります。例えば、糖尿病の患者の場合、増えすぎた糖を排出しようと尿がたくさん排出されるため、体内の水分量が不足することにつながります。
同様に、頻尿など、排尿の量が増えるような排泄障害があるケースでも、必要な水分まで体外に排出されてしまい、脱水症に陥りやすくなります。
 
⑤薬を服用している
高齢者は血圧が高くなる傾向にあり、日常的に血圧を下げる降圧薬を服用している人は少なくないでしょう。降圧薬の中には、尿の排出を促して塩分を体外に出すために利尿作用を含んでいるものがあり、これも脱水症の一因になります。

 

脱水症のサイン

 脱水症に陥っても、高齢者本人が気づかないことがあるため、周囲の人が気づいてあげることが大切です。脱水症のサインを軽度から重度までご紹介します。
 
●軽度
皮膚の乾燥が見られます。唇がカサカサしていたり、口の中が乾燥していたりする場合は、脱水症を疑う必要があります。また、通常であれば汗で湿っているはずの脇の下が乾いた状態になっているときも要注意。手の甲の皮膚をつまんだ後にすぐ戻らない場合や、爪を押してから色がすぐに戻らないときも、乾燥しているサインです。
脱水症のサインは行動にも表れます。ボーッとしたり、「傾眠傾向」といわれるうとうとしている状態が頻繁に見られたりするようであれば、脱水症を起こしている可能性があります。そのほか、めまいやふらつきなどの症状が出ていたり、手足の末端が冷たくなっていたりするときも、血流が悪くなっている証拠なので、注意深く観察してください。
 
●中度
軽度の状態から症状が悪化すると、頭痛や吐き気などを訴えるようになります。
また、体の水分量が不足し、汗や排尿の量が減るため、トイレの回数をチェックしてください。
さらに、体から水分が抜けたことによって体重が減少したり、嘔吐や下痢など、明らかな体調異常が見られたりすることもあります。
 
●重度
症状がさらに進むと、話しかけても反応がなくなり、意識がもうろうとしたような状態になる場合があります。ひどいときは、意識を失ったり、体の痙攣が起こったりします。

 

脱水症の症状が見られたときの応急処置

 万が一脱水症のサインが現れても、慌てる必要はありません。その対応方法を確認しておきましょう。
 
●軽度の場合
脱水症を起こしている人には、十分な水分と、体の機能調節に必要不可欠なミネラル「電解質」を補う必要があります。両方を効率的に摂取するには、「経口補水液」を飲むのが良いでしょう。経口補水液とは、水に食塩とブドウ糖を溶かしたもので、水分と電解質の吸収を助けてくれます。
経口補水液がない場合は、自宅で作ることもできます。水1リットルに対して食塩3グラム、砂糖20~40グラムを溶かせば完成です。少量のレモン果汁を入れると、飲みやすくなります。
 
脱水症の症状が現れてから4時間以内に、経口補水液を、体重1キログラムあたり30~50ミリリットル飲ませましょう。医師から塩分摂取についての指示がある場合は、飲ませる前に相談してください。
 
経口補水液ではなく普通の水で対応するなら、1日に約2リットルの水分を目安に飲ませてください。ただし、1度に大量の水分摂取は下痢を引き起こし、かえって脱水症を亢進してしまう可能性があるので、「こまめに」摂取するよう促しましょう。
 
●中度の場合
脱水症の症状が現れてから4時間以内に、経口補水液を、体重1キログラムあたり100ミリリットル飲ませます。下痢がある場合は、1回排泄するごとに、体重1キログラムあたり10ミリリットルを飲ませましょう。嘔吐が見られる場合は、1回嘔吐するごとに、吐いた量と同じ程度の経口補水液を飲ませる必要があります。
症状が落ち着いてきたら、軽度のときと同じように対処します。
 
●重度の場合
意識障害や体の痙攣が見られる場合は、口からの水分摂取では間に合わない可能性があります。自己判断で対応を行うと、命の危険もありますので、点滴などの医療処置を受けるため、すみやかに病院で医師の診断を仰ぎましょう。

 

普段からできる脱水症の予防法

 介護施設に勤務していると度々見られる状況なのですが、高齢者はそこまでお茶を好むわけではありません。食事の際に提供するお茶も、人によっては一切手を付けずに残してしまいます。そんな時はお茶に限らずジュースを提供してもいいでしょうし、おやつ感覚でゼリーを提供するのもいいでしょう。むしろ胃や腸を早く通過してしまう水分よりも、ゼリーの方が効果的な場合もあります。また、スポーツ飲料に関しては「そればかり飲ませていたら太るから」という介護員さんもいますが、スポーツ飲料の成分表示をよーくご覧ください。実は糖分よりも塩分の方がはるかに多いのです。「飲ませすぎると太る」というのはもちろん間違いないのですが、それ以上に塩分過多になり余計に喉が渇く状況にもなりえます。「何事も適度に」を心掛けましょう。

 また経口摂取に限らず、乾燥しているのであれば加湿器を使用し生活環境の湿潤化に努めるのも一つの手です。飲みたくもない水分を摂らされるのも苦痛かと思いますので、本人ではなく周りの環境を変えるのも大切なことなんですよ。