高齢者が感染症にかかりやすくなるのは「免疫力が下がるから」ということはほとんどの方が理解されていることかと思いますが、実際にどんな感染症にかかってしまうのでしょうか?以下で簡単に解説をしていきたいと思います。ちなみに高齢者でなくとも、ステロイド系の内服をされている方に関しては、その薬の性質上感染症にかかりやすくなってしまいますのでご注意下さい。
高齢者がかかりやすい感染症の種類
インフルエンザ・・・言わずもがなですね。インフルエンザウイルスに感染することで発症します。38℃以上の高熱や関節痛、筋肉痛などの症状が特徴ですが、高齢者はあまり高熱が出ないこともあります。実際に37.0℃でも検査反応が陽性だったケースを見たことがあります。
感染性胃腸炎・・・高熱や激しい下痢・嘔吐を発症し、脱水による全身状態の状態低下を引き起こします。主な原因は食中毒ですが、「ノロウィルス」に関しては冬場に多いです。
尿路感染症・・・腎臓から尿道に至るまでの道を「尿路」と呼びますが、その尿路において細菌感染を起こし、尿が濁ります。通常は発熱や残尿感が見られますが、症状が進行すれば排尿痛が引き起こされます。ただし、高齢者の場合は頻尿だけが現れることがあります。
肺炎・・・読んで字の如く、肺が炎症を引き起こします。炎症の原因は様々ですが、高齢者の場合は主に風邪やインフルエンザの合併症として起こります。感染症ではありませんが、飲食物がうまく飲み込めず気道、または肺に入ることで引き起こされる「誤嚥性肺炎」も、私たち介護従事者にとってはお馴染みです。
結核・・・空気感染により結核菌が体内に入り、主に肺の内部で増えて発症します。咳、痰、微熱、だるさ、寝汗など風邪のような症状が多いですが、肺以外にも、リンパ節、脳など身体の他の部分に影響が及ぶことがあります。高齢者の場合は、かつて感染した菌が残っていて、免疫が衰えた老年期に再び活性化して肺結核を起こすことが多くありますが、発症した場合でも、現在は医療が進歩し、死亡率はそれほど高くはありません。
レジオネラ症・・・レジオネラ菌によって引き起こされます。レジオネラ菌自体は自然界に広く分布していますが、風に乗って加湿器や循環式浴槽に入り込み、水を媒介として感染に至ります。循環式浴槽を使用しているほとんど高齢者施設では、哺乳瓶の消毒液のような弱塩素の消毒液を微量に混ぜて入浴介助をおこなっています。またそのような施設では保健所の方々が来て定期的に水質調査も行います。
MRSA・・・私たちの粘膜や皮膚・髪の毛等に黄色ブドウ球菌という菌が付着しています。この菌自体はとても弱く通常の抵抗力を持っていれば発症することのない菌です。MRSAはその菌の仲間で、抗生剤が効きにくくなる「耐性遺伝子」を持っています。その分病気の治りが遅くなり、重症化すると、敗血症、髄膜炎、心内膜炎、骨髄炎などに陥って死亡する事も少なくありません。接触感染が主な感染経路となります。
緑膿菌感染症・・・緑膿菌は水場を中心に通常の環境内にある菌で、健康な人には害がありません。しかし、免疫が弱まると体の様々な場所に影響を及ぼします。緑膿菌感染は呼吸器系、尿路、血管内に影響が出ることが多く、特に呼吸器系に感染すると症状は重く、肺組織が破壊されてしまいます。
腸管出血性大腸菌・・・大腸菌は家畜や人の腸内に存在しほとんどは問題を起こしませんが、中には人に下痢などの消化器症状や合併症を起こすものがあり、病原性大腸菌と呼ばれています。特に腸管出血性大腸菌は毒力の強いベロ毒素を出し、下痢、激しい腹痛、血便の他にも急性脳症や尿量減少や浮腫、頭痛、けいれんなどの症状が出る溶血性尿毒症症候群(HUS)などの命に関わる合併症を引き起こすのが特徴です。腸管出血性大腸菌は何個か種類がありますが、o-157が有名ですね。
疥癬・・・ヒゼンダニが皮膚の角質層に寄生し、卵を産み増殖して発症します。手のひら、指の間、わきの下、おへそ周り、太ももの内側、陰部などに赤い発疹が出ます。かゆみはヒゼンダニが活動する夜間に強くなり、眠れないこともあります。接触によって感染し、人の皮膚から離れると3時間程度で死にますが、同じタオルを使う場合などでも感染することがあります。診断は難しく、通常の湿疹にしか見えないこともあるため、湿疹様のかゆみは感染を疑い様子を見ておかないと、感染拡大の恐れもあります。
日常生活での予防
基本は手洗い・うがいです。手洗いでは、特に爪の中や指間、手首まで入念に洗ってください。また高齢者施設では、「1ケア1手袋」を合言葉に、一つのケア毎に手袋を交換し、自身が感染源、または媒介者とならないよう努めることが大切です。
また高齢者の場合は、特に感染症が流行しやすい冬に予防接種を受けるのも有効です。受けたからと言って発症しないわけではないので、そちらは予めご了承下さい。