適切な介護技術
2020.04.06掲載
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介護・福祉業界

 介護のお仕事は、得てして「人生の大先輩に敬意をもって」「認知症の方には愛情をもって」と、気持ちの面がクローズアップされがちです。もろちん間違ってはいませんし、介護のお仕事をする上で他人を敬う気持ちは非常に大切な素養の一つです。

 しかしそれと同じくらい介護は理屈にまみれていて、細やかなケアにも一つ一つ根拠が必要となります。今回はそのうちの一つ、介護技術に関してお話をしていきたいと思います。

 

介護技術はどうして必要なの?

 腰痛防止?利用者の安全の為?……どちらも正解ですが、本質はそうではありません。介護の基本理念。それは「やってあげる」ではなく、「出来ないことのお手伝い」です。子育てを想像すると分かりやすいかと思いますが、なんでもかんでも親がやってあげてしまうと、子供はそこに甘えて自発的に何かをやろうとする意志に乏しくなります。これ、実は高齢者にも同じことが言えるんです。80歳・90歳になって体もほとんど言うことが効かなくなると、他人の力に頼ってしまいがちになるのは容易に想像できると思います。もちろん頼っていいのですが、体が不自由であればあるほど、見ている側の立場からすると「やってあげたくなる」のもまた事実です。もしくは現役の介護員さんからすれば、「だってそっちの方が早いんだもん」という声が聞こえてきそうですが。。。(汗)

 大切なことはその人が今持っている機能は何なのかを見定め、残存機能を活かしつつ、体が衰えてきたとしても出来るだけご自分の力で生活しようとする意志を生み出すこと。そりゃなんでもかんでもやってあげていては筋力も思考力も落ちる一方で、意思なんか生まれっこないですよね。介護技術はその為にあるのです。

 

具体的には…?

 食事・排泄・入浴等々、介護には必要な技術が沢山あります。その代表格であるボディメカニクスの8原則に関してご説明いたします。

1、支持基底面積を広くする・・・両足を開いて立った時、左右の足の間に空間が生まれます。これを支持基底面と呼び、この面積がちょうど肩幅くらいになったときが一番バランスが取りやすく、また少しの力で対象物(者)を動かすことができます。

 

2、対象に近づける・・・スーパーで沢山買い物をした帰り、ギュウギュウに詰まった買い物袋を車から取り出すとき、皆さんは腕をピンピンに伸ばした状態から袋を持ち上げられますか?よーく考えてみると、多少なりとも腕を曲げて少しでも体に近い所で持とうとするはずです。対象物に近い方が断然力が入りやすいですよね。

 

3、人間は重心が動かないと立てない・・・皆さんが何気なくやっている立ち上がり動作。その一つ一つを分解して考えてみると、まず最初に座った状態から前屈みになります。この前屈みこそが最重要ポイントで、屈んだ瞬間に重心が前に移動することでお尻が少し持ち上がり、立ち上がりの動作につながります。目の前に壁や障害物があると、この前屈みの状態を取れなくなり多くの場合立ち上がれません。稀にその状態でも立ち上がれる猛者がいますが(笑)

 

4、重心を低くする・・・2と原理は似ていますが、体が一直線に伸びたままだと力は入りにくいです。バレーボール選手がジャンプをするときも、野球選手がバットを振る直前も、水泳選手が飛び込む瞬間も、予備動作として必ず膝を曲げ体を小さく縮める瞬間があるのと同じことです。

 

5、対象を小さくまとめる・・・ベッドに寝ている利用者を動かすとき、必ず利用者の体は小さくまとめましょう。ここで言う「まとめる」とは、両手を胸の上で組み、膝を軽く曲げてもらい、なるべくベッドと体の接地面が少なくなるようにすることです。逆に接地面が大きく摩擦係数が高くなればなるほど余計に力を必要とし、効率のいい介助が出来なくなります。またその余計な力こそ腰痛の原因になりかねません。

 

6、大きな筋肉を使う・・・大きな筋肉ってどこ?……それはご自分で調べましょう。一つ言えるのは、指や手の力だけで対象物を動かそうとすると怪我をする可能性が非常に高くなります。筆者も転んだ拍子に手をついて怪我をしてしまった経験があります。あの時もっと大きな筋肉で体を支えられたら…。

 

7、てこの原理を利用する・・・てこの原理とは、力点(力を加える点)と作用点(力が働く点)の間に支点(支えとなる点)をおくことで、大きなものを少ない力で動かせる原理です。
たとえば、利用者さんを端座位(ベッドの端に両足を垂らして座った状態)にさせるときは、利用者さんの臀部(でんぶ)を支点にして回転させると、てこの原理が働き、少ない力で介助することができます。

 

8、押さずに引く・・・人間の筋肉は押すときよりも引いたときにパワーが発揮できるようになっています。筋肉ムキムキの象徴、力こぶだって、肘を曲げたときに見られますよね。また押すということはそれだけ対象物が離れていってしまうことにもなるので、2でお話した内容とも逆行してしまいます。お気をつけ下さい。

 

まとめ

 冒頭でもお伝えした通り、介護技術は人を活かす為のものです。なんでもかんでもやってあげることが悪いことだとは言いませんし、それが利用者のニーズであるならば応えないわけにもいかないでしょう。ただ、やってあげればその分失うものも出てくることを頭の片隅に置いておいて下さい。なんたって今や介護保険制度自体が「自立支援」を基本理念として据えているわけですから。