誰だって認知症にはなりたくないもの。原因は解明されつつありますが治療方法は未だ確立していないこの病気。家族や友人が突然認知症状を発症したら、あなたはどうしますか?そもそも認知症って何?
理解しているようであまり理解されていない認知症についてお話を進めていきます。
認知症とは?
皆さんは認知症と聞いて何を思い浮かべるでしょう。……物忘れ?徘徊?幻覚?実はそのどれもが認知症の本質を突いたものではありません。認知症の根本を紐解けば、認知症への理解が深まるだけでなく、一部対応方法まで見えてきます。
そもそも認知とは何でしょう。辞書に当たってみると「ある事柄をはっきりと認めること」とあります。では更にもう一歩進めて、「認める」とはどういうことなのでしょう。
物事を認知する際に人間の脳はある3つの工程を踏んでいます。例えばあなたが道を歩いている時、段差が出現したとします。まず最初に、段差があるということを「認識」することから始まります。次にその段差について「注意」を払い、過去の経験や知識に基づき、避ける・超える等の「判断」と下します。この「認識」「注意」「判断」こそ人間が物事を認知をする上で非常に重要なファクターとなります。そしてこの3つのうちのどれか、もしくは複数が“著しく”欠落した状態こそ認知症なのです。
認知症の種類
認知症には3つの種類があり、それぞれ出現する症状が異なります。
①アルツハイマー型認知症・・・認知症の中で一番多い。タンパク質の一種により脳が委縮して起こる。
②レビー小体型認知症・・・レビー小体というたんぱく質の一種が脳に蓄積し、脳の神経細胞が徐々に減っていく進行性の病気。
③脳血管型認知症・・・脳梗塞や脳出血等、脳血管に障害が起こることで周囲の脳神経にダメージが及び認知症状が発症する。
認知症の症状
一言で認知症と言っても症状は様々です。認知症には「中核症状」と「周辺症状」があります。
「中核症状」
①記憶障害・・・認知症を発症すると、早期に記憶する能力の障害が起きます。 健常な人でも年齢を重ねるほどに物忘れが多くなりますが、何かヒントや小さなきっかけがあれば思い出すことができます。しかし、認知症の記憶障害では数分前に見聞きしたことや自分がした行動でも思い出せなくなってしまうのです。 症状が進行するにつれ、以前は覚えていたはずの記憶も欠損していきます。まだ忘れずに残っている記憶を頼りにするため、自分がいる状況を把握できなくなることも。アルツハイマー型認知症ではとくに、経験したできごとに関する「エピソード記憶」が思い出せなくなることが多いです。
②見当識障害・・・今日が何月何日で今何時くらいかわからない。知っているはずの人を見ても、どんな人だったか思い出せない。周りの人間と自分との関係がわからない……。このように、自分の置かれた状況が把握できなくなり、ひとり取り残されてしまったような状態になるのが見当識障害です。とくに引越しや入院など、環境が変わったときに強く現れるようになります。
③失行・・・体を動かせるにもかかわらず、自分が目的を持った行動の方法がわからなくなる状態を「失行」といいます。以前は普通にできていたことができなくなってしまいます。
④失語・・・脳梗塞などの原因で脳血管型認知症になってしまい、脳の言語に関わる部位が損傷することで「聞く・話す・読む・書く」といった音声・文字などの言語情報に関わる機能が失われた状態を「失語」といいます。 言語障害があると、自分と他人とのコミュニケーションがうまくできなくなり、抑うつ状態になりやすくなります。
「周辺症状」
①徘徊・・・不安や焦燥、見当識障害により歩き回る症状です。「夕暮れ症候群」とも言われ、夕方から夜間にかけて多くなる傾向があります。行方不明や交通事故などの被害も多く、周辺症状の中でも特に注意が必要です。
②幻覚・せん妄・・・幻覚は、ないものが見える「幻視」と、ない声・音が聞こえる「幻聴」があります。特にレビー小体型認知症の方の8割は幻覚がみられます。また、アルツハイマー型認知症ではせん妄も多く、「物盗られ妄想」などで、家族や介護職員の心が深く傷つくケースもあります。
③暴言・暴力・・・認知症によって前頭葉の機能が低下し、感情のコントロールが難しくなった場合、家族や介護職員に暴言や暴力を振るうことがあります。実際、筆者も受けたことがあります。。。
④異食・・・主に認識の問題であり、常識的に口にしないものを食べ物と勘違いして食べてしまうことがあります。
⑤尿(便)失禁・・・尿意・便意のコントロールがうまく出来ず、自分の意志に反して小便・大便が出てしまうことがあります。
⑥感情失禁・・・情緒のコントロールがうまく出来ず、過度に感情が表出してしまうことがあります。一つ例を挙げると、悲しくもないのに急に感情が昂ぶり涙が出てしまいます。「失禁」と言うと糞尿の方を想像しがちですが、似て非なるものです。
その他にも「不眠」「帰宅願望」「不安・抑うつ」「介護拒否」等、たくさんの周辺症状が存在します。
認知症患者との関わり方
認知症は、誰しもなりたくてなっているわけではありません。本人のために良かれと思って対応しても、誤った接し方が原因で、認知症の症状が進行してしまうこともあります。
まず大原則ですが、身近な人が認知症になってしまったら皆さんは困りますよね。でも一番困っているのは認知症患者本人であることを忘れてはいけません。今まで出来ていたことがある日を境に出来なくなっていく不安感。いつも近くにいるのに、その家族の名前が思い出せなくなる焦燥感。そうして生活が陰鬱になりがちになってしまうことへの閉塞感。皆さんは耐えられるでしょうか?否、私には想像もつきません。そんな認知症の方が感じている世界を正しく理解し、思いやりのある接し方を心がけましょう。
①叱咤はNG・・・認知症は、知的機能が衰えても感情の機能は衰えていません。どうして叱られているのかはわからないけれど、叱られていることだけは理解しています。わけも分からず怒られるのは誰しも受け入れられるものではありません。その疎外感やストレスが、認知症をより進行させてしまいます。
②穏やかに目線を合わせて・・・病気のため一日中ベッドで過ごしたり、車いすを利用したりしている高齢者は多くいます。そんな高齢者に話しかけるときは、体勢を下げて本人と目線の高さを合わせることが大事です。立ったままで上から話しかけられても、どこか見下されているような印象を与えるばかりか、不安を与えてしまう可能性もあります。また高齢になると高い音が聞き取りにくくなります。耳が遠いからと言ってただただ大きな声話し掛けてみても「怒ってるの?」と言われてしまうこともしばしば。筆者もそれで何回か失敗しています。。。お話をするときは極力穏やかに話すことも非常に大切です。
③受け入れる・・・介護にはとても便利な言葉があります。皆さん「傾聴」という言葉をご存じでしょうか?相手の話している意図を熱心に聞き理解しようと努める姿勢のことを傾聴と言います。介護業界で10年働いた筆者ですら、認知症の方の行動は未だに理解や予測が出来ないものが沢山あります。そんなときでも「うんうん、そうなんですね」とひとまず受け入れ、その行動を観察し理解しようと努めることが大切です。
最後に…
何度もお伝えしますが、認知症は誰もがなりたくない病気です。現在罹患している方々も、罹患前はきっとそう思っていたことでしょう。私たちに求められるのは認知症を正しく理解すること、その一言に尽きます。こちらの記事を最後まで読んで頂いたとしても、実際に認知症患者を目の前にしないとわからないことも沢山あります。「あの人ちょっとボケてるみたい」「えー、あんまり関わらないようにしよう」ではなく、積極的に関わりを持ちその人が何を望んでいるのかを汲み取ってみて下さい。絶対に冷たい態度だけは取らないで下さい。次になるのはあなたかもしれませんよ…?